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さて、前回ドイツの役所から書面で呼び出され、面接を受けることになったわけですが、ここからも気の長いやり取りが続きます。
面接のアポを取るのに一苦労
Internationale Begegnungsstatte(長いので以下日本風に「異文化交流課」と訳しておきます)から「インテグレーション・コースに参加する義務があるのか、権利があるのか判断するために面接をするので、ついてはアポイントを取るように」という手紙がやってきました(詳細は前回の記事をご覧ください)。
「面接に来なければ移民局に報告する」とまで言われたら行かねばなりません。移民局担当者の説明不足のせいでこんな書面が送られてきたことになんでやねん!と腹立ちを覚えたりもしますが、まあ働いているわけでもなく、ヒマなのでのこのこと異文化交流課に行くことにしました。
ボンの異文化交流課はボン中央駅の近く。我が家からはなんとか徒歩圏内というところです。散歩がてら面接のアポイントを取りに直接やってきました。ドイツ語ができれば電話でもいいようなのですが、わたしは英語でもドイツ語でも電話がうまくできないので、どこでも直接アポが基本です。
部屋が見つからない
異文化交流課はAmt für Kinder, Jugend und Familie(児童、青年、家庭のための部局)の中にあるのですが、表示が少ないのでどこに行けばアポイントが取れるのかさっぱり分からない。
近くにある部屋の表示を見てみると「ドイツ語講座」とか「ドイツ語文化講座」とか書いてあります。1フロアに小さな教室が3部屋程度。さほど大きくはありませんが、受付が見当たらないし、人もいないので聞くに聞けない。
うろうろと見回していると、ようやく階段の手すりの脇に小さく「→Büro(事務室)」と書いてあるのを見つけました。小さいよ!初めてのお客さんは見逃すよ!
ドイツの役所の建物は保安上の問題からなのか、見取り図がないことが多く、どこに行けばいいのか分からないことがよくあります。その点、日本なんて首長の部屋まで公開できるんですから、安全な国って素晴らしい。
担当者がいない
小さな表示に従って2階に上がると、事務室が3つありました。それぞれに担当者の名前が書いてあって、わたし宛の手紙に署名されていた名前もそこにあります。扉が閉まっているので、ノックしてみましたが応答なし。狭い廊下で待っていた人が「担当者の人はいまいないみたい」と教えてくれました。ありがとう、いい人だ。
数分待つと、担当者の人がやってきました。そして先ほど教えてくれたいい人が名前を呼ばれ、中に入っていきます。戸口に立って声をかけようとすると、担当者の男性に「予約ありますか?」と聞かれました。「いいえ、予約を取るために今日来ました」と答えると、「その奥に受付の人がいるから話してみてください」と、部屋の向かい側にある別の部屋を指さします。なるほど、よく分からないけど、とりあえず行ってみます。
空きがない
担当者の向かいの部屋に行くと、女性が一人、デスクに向かって仕事をしています。上手くないドイツ語で「すみません、入っていいですか?」と聞くと「はい、どうぞ」と気軽に答えてくれました。いい人そうで安心です。ドイツは担当者によって対応が全然違うので、毎回とても緊張します。
女性に手紙を見せると「ああ、予約を取りたいんですね」とすぐに分かってもらえました。素晴らしい。しかし「じゃあ、○○日でどうですか?」と言われたのは20日後。うん、そうですよね。住民登録やビザの手続きが1~2か月先なんだから、すぐに空きがあるはずがありません。しかも折あしく、20日後は日本へ帰国中。帰国後に来るとすると、この時点からほぼ1か月後、6月終わりになってしまいます。移民局に報告されてしまうんだろうか……とドキドキしながら、聞いてみると「もうアポイントを取ったから大丈夫ですよ」とのこと。ともかく一安心です。
アポイントの日付を移民局から送られて来た手紙の端っこに、くちゃくちゃくちゃ~っと書いただけというのがやや気になりましたが、疲れてきていたので、ま、いっかとあきらめて自宅に帰りました。
面接当日、人がわさわさ

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日本一時帰国をはさんで1か月後。再び異文化交流課を訪れました。今回は場所も分かるしアポも取ってあるし安心安心、と鼻歌気分で階段を上がると、狭い廊下に人がひしめき合っています。なにがあった!
シリア難民の人々が家族総出で予約手続き
廊下にいるのは主にアラブ系の人々です。見ていると3家族ぐらいが一度に来ている模様。1家族が6~7人なので、狭い廊下は人でわっさわさです。
のちほど分かったのですが、このころシリアなどから逃れてきた難民の人々がボンにやってきて急増していたのだそうです。元々難民の受け入れはミュンヘン、フランクフルト、ベルリン、ケルンなどで積極的に行われてきたのですが、ケルンはすでにパンク状態。なので、近くのボンでも従来以上の人数を受け入れることになったのだとか。
昨年ごろからBad Godesbergという地区に難民受け入れのための施設がたくさん建設されていることは知っていましたし、実際アラブ系の人が増えたなとも思っていたのですが、まさにその余波をまともに受けるとはこのときは想像もしていませんでした。
ちなみに教えてくれたのはIntegrationkursのクラスメイトでイラクから逃れてきた女性。「本当は親戚がいるケルンに住みたかったんだけど受け入れてもらえなかった」と話していました。そりゃいきなり言葉も分からない、仕事もない、地縁もない土地で住むのは不安でしょうね。難民の受け入れにはいろいろな問題もありますが、戦火を逃れてきた友人たちの話を聞いていると「ドイツに来ることができてよかったな」と思います。
さて、このときはそんなことは知らなかったので「えらいたくさん人がいるなぁ」程度に考えていました。前の予約が長引いたか、ダブルブッキングか、はたまた第三の理由か。そうこうしているうちに一人のアラブ人男性にドイツ語で「予約は取ってますか?」と話しかけられました。「はい。1か月前に取りました」と答えると、男性は「ありがとう」と言った後、他の人々とアラビア語っぽい言葉で勢いよく話し始めます。よく分からないけど有益な情報が提供できたようでなにより。
待つこと30分以上。するとようやく職員らしき女性がやってきて「予約を取ってない人はこちらで手続きをしま~す」と声をかけました。しかもドイツ語。これからドイツ語を習おうという人々にドイツ語で話しかけるって。とも思いますが、みんな英語ができるというわけでもないので仕方ない。ドイツなんだからドイツ語ですよね。
幸い何人かはドイツ語が分かるようで(まあ、わたしも分かるぐらいなので)、わさわさ~っと人が移動を始めました。わたしが入室するはずの隣の部屋にみるみる人が飲み込まれていき、廊下に残ったのはわたしともう一組のアラブ人夫婦だけ。人に埋もれて見えていませんでしたがもう一組いたようです。お疲れ様です。
結局、ほとんどが予約待ちの人たちだということが分かり一安心。すでにわたしの予約時間は過ぎていますが、とんでもなく待つ必要はなさそう……と思ったのですが、そう上手くも行きませんでした……。
担当官、空腹に勝てずご飯を食べに行く
予約時間を30分ほど過ぎ、ようやく担当官の部屋のドアが開きました。わたしかもう一組のご夫婦か。呼ばれるのを待っていると担当官が出てきて「お待たせして申し訳ない。しかし昼食を食べていないので、いまから食べてきていいでしょうか」と言います。担当官は男性で、ドイツ人らしく結構縦にも横にも大柄です。……うん、空腹には勝てませんもんね。わたしより先に、もう一組のご夫婦のご主人が「もちろんです。どうぞどうぞ!」と快く送り出しました。さすがアラブ人。他人にも自分にも時間におおらか。わたし、あなたたちのそういうところ好きです。
そして予約時間を過ぎること1時間。遠慮なく昼食を満喫した担当官が帰ってきました。いやいや、怒ってません。怒ってませんよ!
面接は順調。15分で終了

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担当官がわたしの名前を呼んだので、アラブ人ご夫婦に先んじて入室します。第一声はもちろん、
「いやぁ、お待たせして申し訳ありませんね」
ほんまにな!と言いたくなりますが、そんなドイツ語は分からないので「いいえ、問題ありません」と応えるしかありません。大人になったものです。
「説明は英語とドイツ語とどちらがいいですか?」
と聞いてくれたので、聞き取りならまだマシな英語でお願いすることにしました。
概要は簡単にいうと次のようになります。
- あなたはIntegrationkurs(インテグレーションコース)を受ける権利がある
- インテグレショーンコースを開講しているのは渡したリストにある学校である
- 安価ではないしインテグレーションコースでもないが、Goethe Institut(ゲーテ・インスティテュート)でB1の授業を受講しても構わない
- いずれにせよ、B1レベルの授業を受け終わることが重要
- B1の授業が終わった後には所定の用紙で異文化交流課に知らせること(受講した学校が連絡を行う)
- B1終了後はDeutsch-Test fur Zuwanderer(移民のためのドイツ語)というテストを受けること
- 永住権を取得するには、Orientierungskurs(オリエンテーション講座)も受ける必要がある
- こちらも開講校はリストのとおり
- リストにある学校を選べば、B1の授業→テスト→オリエンテーション講座という一連の流れがスムーズである
うむ、なるほど。結局、安価なインテグレーションコースの受講は権利であって義務ではないということでした。
しかしパートナーがドイツ人の人や難民の人は条件が違うようです。また日本の会社に籍を置いてドイツで働いている駐在員の人には、長く住んでいたとしてもインテグレーションコースのアナウンスがされないこともあるようです。いろいろ難しい。
まあ、うちのように夫婦二人とも日本人だったら、インテグレーションコースが義務付けられるわけないんですよね。「永住権を取りたいなら受けてもいいし、受けずに2年ごとにビザの更新をしてもいい」ということのようです。
ともかく、担当官の人が「インテグレーションコースを受ける権利がありますよ」という証明書を書いてくれたので、これを持っていけばリストにある学校で受講できることになりました。
担当官の人は「ホッホシューレでもゲーテでも、どちらでもあなたの好きな方を選べばいいですよ」というので、いったん家に持ち帰り検討することにします。
ここまで15分。ああ、待ってる時間の方が長かった……。しかし担当官の人はすごく親切だったので、まあよかったよかった(と思わなければやってられない)。
さて、いよいよ講座の申し込みに行くわけですが、またまた長くなってきたので続きは次回の記事で。


