「3秒ルール」をご存じですか? たとえば友達からもらったクッキーを床に落としちゃったけど「3秒経ってないからセーフ!」といって食べちゃう、アレです。長い間、ローカルルールだと思っていたのですが、実は日本国内どころか海外にもあると知り驚きました。
俄然、気になるのは「どの国に何秒ルールがあるのか」ということです。ドイツに住んでから、語学学校でいろんな国の人に会うようになったので、せっかくだから「3秒ルール」について聞いてみることにしました。
きっかけはインドネシア・バリ島の「10秒ルール」
気になり出したきっかけはインドネシアのバリ島にしばらく住んでいた昔の同僚の話です。おそらく残業中に夜食を食べていて、誰かが何かを落とし「3秒ルール」を発動させて拾って食べたんだと思います(後の話が衝撃でこの辺はうろ覚え)。そうしたら彼が「バリ島だと10秒なんですよ」というわけです。
10秒!? 長くない!? だって3秒だと「落ちたけど、まだ汚れは回り切ってないから大丈夫!」って感じがするけど、10秒だともう完全にアウトな気がしませんか? というかそんなのんきに数えていていいんだろうか。
彼が言うには「まだ10秒経ってない~♪ だから食べても大丈夫~♪」みたいなメロディがあり、それがのんびりしているので10秒ぐらいかかるのだとか。楽しそうなとこだな、バリ島。
地元神戸ではけっこう厳格に3秒で、素早い動きが求められました。拾うときも「まだ3秒!イエーイ!セーーーフ!」というようにかなりハイテンションで叫ぶので、ずっとローカルルールだと思ってたんですよね。他の地域の人がこんなにハイテンションで落ちた物を拾い、喜々として食べる姿が思い浮かばなかったので。せいぜい関西ぐらいかと。
そしたらまさかの海外。そして10秒。
自分が思っている以上に3秒ルールはいろんなところにあるのかもしれない、と初めて意識しました。
ドイツで聞き取り調査を始める
その後、ドイツに住み、語学学校でいろんな国の人に会うので、せっかくだから3秒ルールの分布を調べようと「あなたの国に3秒ルールはあるのか? あるとしたらそれは3秒か? もっと長い(短い)のか?」という質問をするようになりました。以下、サンプル数が少ないのですが、聞き取り調査の結果です。
南米は「3秒ルール」が主流
ブラジル人1人、ボリビア人1人、ペルー人1人、チリ人2人に聞いたところ、みんな「3秒ルールがある」ということでした。時間も3秒。拾い方も神戸と似ていて「まだ3秒経ってない!問題ない!イエーーーイ!」って感じで実演してくれました。ドイツ語で聞いてるから現地語だともうちょっと違うのかもしれませんが、ハイテンションにすごく親近感が沸く。
東南アジアも「3秒ルール」。インドネシアも地域で違う
タイ人1人、インドネシア人2人に聞いたところ、やはり「3秒ルールあり」でした。インドネシア人に「バリ島では10秒ルールって聞いたけど」と聞くと、「スマトラ島出身だからバリ島とは違うかも」ということでした。インドネシアって島によってかなり文化も習慣も違うんですって。なるほど。
インドからシリアにかけて「3秒ルールなし」
インド人3人、パキスタン人1人、イラン人3人、シリア人多数に聞いたところ、「3秒ルールはない」ので、拾って問題なさそうな物は拾って食べるとのことでした。物で区別って感じですね。
逆に「落ちて3秒以上経ったら拾わないの?」と聞かれたので、「3秒をすごくゆっくり数えたら拾って食べてもいいという特別ルールがある」と答えたら「本当に!?」と爆笑されました。まあ、たしかにバカっぽい特別ルールですね。3秒の意味ない。
トルコは「3秒ルール」
東南アジアからインドでいったん途切れた「3秒ルール」ですが、トルコでは復活します。トルコ人3人に聞いてみました。トルコって3秒ルール以外にも、綺麗好きとか美味しい食べ物に貪欲とか、日本人と似ているところが多い気がします。
欧州は「3秒ルールなし」が主流
ドイツ人多数、ポーランド人5人、チェコ人4人、ウクライナ人3人、ロシア人2人、クロアチア人1人、イタリア人3人、スペイン人2人、ベルギー人1人、スウェーデン人1人に聞いたところ、「3秒ルールなし」とのことでした。というか、そもそも落ちた物を拾って食べてなにが悪いのか分からん、という人が多かった。もちろん物や場所は選ぶようですが。
たしかにヨーロッパって、地面に置いたカバンをテーブルの上に置いたり、さらにその机にパンや食べ物を直置きしたり、やや衛生観念がゆるい人が多い気はするんですよね。たぶん日本に比べて乾燥しているから、雑菌が繁殖することが少なく、食べ物に当たる危険も少ないんでしょうね。実際、家に置いている食べ物も腐りにくいです。
レストランでお手拭きが出ないのも最初は気になりましたが、もう最近は道路沿いのオープンテラスに放置されている、ホコリまみれのカトラリーで食事するのも平気になりました。どんとこい。
米英は「5秒ルール」
語学学校にアメリカン人、イギリス人はいなかったのですが、調べてみるとアメリカ・イギリスなど英語圏では「5秒ルール」が主流なようです。2秒長い。なぜ2秒長いのかということはよく分かりませんが、かなり市民の関心は高いようで、米英の大学では「5秒ルール」に関するいろんな研究がなされています。
米英の大学で真面目に研究「5秒ルール」
米英の大学研究の主テーマをまとめると「食べ物を床に落とした場合、5秒で汚染されるのか否か」ということのようです。この場合、重要なのは3つのポイント。
- 食べ物という「物」
- 床という「場所」
- 5秒という「時間」
たとえばパスタは5秒で汚染されるけど、クッキーは大丈夫とか。リノリウムの床はマシだけどカーペットはダメだとか。ものすごく真剣に研究されてて面白いです。切り口は「5秒ルールはありか?なしか?」と都市伝説の検証っぽいですが、内容自体は食物汚染だから真面目なんですよね。いくつかリンクを貼っておくので興味がある方はどうぞ。
>>3秒ルールは「アリ」、食べ物によっては30分放置もOK(Newsweek Japan 2017年3月22日の記事):イギリス・アストン大学の研究について
>>落とした食べ物の「5秒ルール」はウソ(WIRED 2016年9月13日の記事):アメリカ・ラトガース大学の研究について
>>検証:「3秒ルール」の真偽は?(ナショナルジオグラフィック 2014年3月17日の記事):イギリス・アストン大学とアメリカ・クレムソン大学の研究比較
>>「3秒ルール」をまじめに研究してみたら(WIRED 2012年5月22日の記事):イギリス・マンチェスター・メトロポリタン大学の研究について
まとめ
軽い気持ちで聞き始めた「3秒ルール」ですが、意外と地域差があるので面白かったです。たぶん同じ国でも地域が異なればルールが変わるのではないでしょうか。日本でも関西と関東じゃずいぶん違いますもんね。ドイツ人への聞き取りは旧西ドイツ出身の人がほとんどです。
国や地域、風土や食習慣によってもルールが変わるし、米英の大学研究のように物・場所・時間などの条件でも変わる「3秒ルール」(もしくは5秒、10秒ルール)。興味深い。
「3秒ルール」の聞き取り調査は語学の練習にもなりますし、パーティのちょっとした小ネタにも使えるので面白いですよ。ぜひお試しください^^ これまで10秒ルールの人には会ったことがないので、いつか会って話を聞いてみたい。